【コラム】客寄せパンダには騙されないで。
■客寄せパンダに騙されてはいけない
人材獲得競争が激化している昨今、その波は安泰とも言われていた大企業にも訪れている。
大卒初任給は今や22万円はごくごく当たり前の金額になってきており、そうでもしないと人が集まらない現状がある。
大手製造業は技術職の採用に当たり、有名大学を中心として推薦枠を設けていることがほとんどである。
学生は、推薦枠を利用すると面接の回数の減少や異常なまでの内定率(ほぼ100%内定する)という特典が得られる。
ただし、推薦枠を利用し、内定した場合、「内定辞退」をしないよう大学側にかなりの圧力をかけられる。
内定辞退が発生すると、大学と企業の信頼関係にヒビが入り、次年度以降の推薦枠の減少や消滅が起こってしまい、後輩にも迷惑がかかるぞという脅し方をしてくる。
企業側としては、ある一定レベル以上の学生を確実に、しかもそこまで金をかけずに獲得することができる。
通常の就職面接よりも面接回数が削られるのは、企業にとってはコスト削減に他ならない。
採用した新入社員に対し、「コストかけて君たちを採用した」「最初の数年は給与に対する働きができないのでコストだ」と明言する企業も少なくない。
人材軽視も甚だしい。
そもそも、採用した以上、社員を育てるのは企業の役目であり、教育を放置するのであれば、最初からある程度社会経験を積んでいる人材を中途採用すれば済む話である。
しかし、企業がそれでも新卒採用をやめない理由は、給与水準を抑えこみやすいことと、企業文化に染めやすいことが挙げられる。
そこで、わたしは入社して3~5年経った社員に聞きたい。
あなたは新卒で入社したばかりの頃、就職活動の場では巧に隠されていた会社の内情を知り、「ここがおかしい」「外側から見えるのとは違う」と感じた点が少なからずいくつかあるはずだ。
しかし、入社して数年経ち、おかしいと思わなくなっていないだろうか。
わたしはぜひこの「おかしい」という感覚を忘れないでほしいと思っている。
いつしか、慣れてしまい、当然だと思ってしまうことが、社会的に間違っていることは往々にして存在する。
例えば、三菱自動車や神戸製鋼所のデータ改ざんは記憶に新しいではないだろうか。
組織は外側からの監視の目が思ったよりも少ないのではないだろうか。
東証は1部上場の企業に対し、社外取締役を2名以上設けるよう求めているが、いたずらに法外な報酬を支払っているだけで、期待される役割を果たしていない状態になっているのではなかろうか。
内部統制も大企業ではブームになっている。
しかし、身内の人間が身内を調べたところで中立性は本当に担保できるのか。
むしろ、外部からの監査の前に、社内で監査を行うことで、身内で不都合な事実をうまいこと交わす小手先の手段を用意させて、指摘を免れていることになっていないだろうか。
さて、本題に戻ろう。
初任給の上昇が相次いでいるが、実情は入社後の賃金カーブが緩やかになっているだけである。
つまり、2年目以降の昇給額の幅が減るということである。
現在、バブル期を乗り越え、半世紀以上営んでいる企業は、大量採用時代の50代や60代の対応に苦慮している。
所帯持ちという大義名分の下、また戦後復興の立役者という大義名分の下、彼らは未だ年功序列が残っており、横並びで高給取りになっている。
何食わぬ顔して、多額のサラリーをかっさらっている。
思い切って退職金を大盤振る舞いして追い出す企業もあれば、20代や30代の社員の給与を抑え込むことで対応している企業もある。
対応の違いこそあれど、若い社員が割を食うことには変わりない。
唯一の救いが彼らの親が50代や60代であること。
少なからず恩恵は受けているはずである。
しかし、給与の低迷は少子化の進行や東京への一極集中が物語っているように、静かに日本の均衡が崩れ始めている。
持つ者と持たざる者の差はどんどん広がっている。
若年層でも格差は著しい。
「昔は貧しかったけれど、ここまで頑張ったから今は金に不自由ない」
わたしの40代後半の知り合いはわたしをこう宥める。
しかし、今の世代は一筋縄に行かない。
仮想通貨の熱狂も望みの綱だったのだろう。
ただ、現在の盛り上がりのなさや成功体験が語られることの少なさからして、うまく暴落から逃げ切った人は想像以上に少ないと思われる。
なんとなくわかっていた入社後の虚構の世界。
社名が有名であること以外何か誇れることはあるだろうか。
そんなわたしは入社後、少しでも会社に依存せずに豊かに暮らしたいと思い、せっせと節約し、投資してきた。
労働の卒業は1秒でも早くしたい。
出世競争を一瞥できる余裕が早く欲しい。
ぜひ入社したての諸君はすぐ投資を始めてほしい。
会社は労働を提供するだけ、助けてはくれない。
自分の身は自分で守ろう。
健伍